やなか chic

19990221

稲田さん---伝統を進化させる仕事

以前ご紹介した、古裂屋『夢市』さんの近くにライム・ライトさんがあります。

小さなお店のウィンドウを覗いていると、誠実そうなご夫婦が、「中も見ていってください」と声をかけてくれました。

 お言葉にすっかり甘えて店内を拝見すると、手描きのデザイン画や奥の工房に目がとまりました。

3代目の稲田和哉さんは、平成10年3月ジュエリーショップ『ライム・ライト』をオープン。桜・ぼたん・菊などを彫りこむ日本伝統技術である「和彫り」を今に生かした商品をお作りです。

 初代は谷中3奇人と称された『三郎』氏。水戸金工の一門江幡美俊の門弟として彫金を大正時代に始めました。主に銀器(盃・手鏡・たばこ盆)などに彫り柄をほどこしたのだそうです。戦後は時代の要求に合わせ、銀器よりも宝飾品(指輪・帯留め)へ移行。石留技術も取り入れてお母様の君枝さんが代を継ぎ今も現役で仕事を続けておられます。

 

上下:先代の仕事
 さて3代目の和哉さんは、大学を卒業後潜水夫として海中の調査をしていらっしゃいましたが、昭和61年に家業をお継ぎになりました。

 御自身はサラリーマンを止めた当初、家業には興味がなかったと話してらっしゃいますが、奥様のすみえさんによると「腹のなかでは決めていたようです」とのこと。やはり幼い頃から、お母様の鏨(たがね)を叩く音を聞いて育ったことや、お絵描き・折り紙が得意だったというバックボーンが目覚めたといってよいのでしょう。

 和彫りに使う鏨を叩く音を聞かせていただきました。トントンと刻む音は職人独自のリズムです。この仕事は量産のものと違い、計る・デザインするがすべて職人さんの感覚でなされます。ですから目でみて音で覚え手を動かすこの世界に、mmを計る器具はありません。
 和哉さんの作品の特徴はヨーロッパの技術であるパヴェと和彫りを組み合わせていることにあります。例えば代表的な和彫りの桜を指輪に彫り込み、花芯部分にピンクサファイアを石留の技術を用いて埋め込む。和とも洋ともいえない、伝統を踏まえた新しい作品のできあがりです。和の世界では彫り屋、 錺飾屋、石留屋がそれぞれ行っていたことを和哉さんは一人でなさいます。

 請け負いでは『全体の一部』的な仕事になって、部分を全体にもどしたときのやるせなさ。職人の技術を使う側のこだわりのなさに、こだわりを大切にしたい職人が感じるジレンマ。これが、ライムライトを開店した理由でもありました。すばらしいアイディアを貫いてこそ商品力のある、つまり人が欲しいと思うような作品になる。今、和哉さんはご自身でプロデュースを手がけ様々な技術を用いながら艶(いろ)っぽいもの、四季を感じさせるものを創る事に挑戦しています。

 私が注文した指輪を見てください。ポアレっぽい指輪の台に桜を桜吹雪入りで彫り込んでいただき、花芯にピンクサファイアを留めてもらいます。彫りの端っこの方に私の名前の『菊』が入っています。うれしい...

 デザイン画からのオーダー(自分の夢がかなうよ!)や、リフォームもできます。興味のある方は是非お問い合わせください。一緒につくって行く感覚が楽しめます。

最後に、着物好きからのお願い:明治〜大正にあったような、帯留めを復活させてくださ〜い。


 ライムライト(http://www.lime-light.bz/
 東京都台東区谷中2−15−12
 電話・ファックスとも 03−3821−3028

 休日 不定期(お子さんと町内会の行事によってお休み)


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