Seasonal Scenes

19990701

あげ

『あげ』とは、私が飼っていたアゲハ蝶の幼虫のことである。

ある日私の家宝である山椒の木に鳥の糞のような形のうごめくものがついていた。いつの間に?『あげ』はパクパクこの木を食い荒らしはじめ、焦った私はダミーの山椒を花屋のひろみさん(やなかCHIC参照)から買い、家宝を食べるのをやめてもらった。

(参考)これは近所のミカンの木についた幼虫
食い荒らされた山椒の木
数日経った夜。仕事をから戻ると、あげは『糞』から『あおむし』に変身していた。

サラリー女の私は、子供みたいに『あげ』の成長を見続けられないのが残念だった。そして、一株の山椒を食い荒らして10日後の日曜日。『あげ』は堂々とした体格をもち、さらに他のどんなアゲハ蝶の幼虫よりかわいらしい青虫に成長した。体の緑の具合といい、頭の古代遺跡のような模様といいユニークだ。その顔はこっちを向いて微笑んでいるようにさえ見えた。

ところが、その日の『あげ』は様子が変だった。急に暴れ出し、木を降りてどこかへ行こうとする。山椒が気に入らないのかと新しいものを買って与えたがそれでもこの大暴れは納まらない。木に戻してもまた降りる。病気になってしまったかと心配になり、私はその日、すべてスケジュールをキャンセルして『あげ』を見守った。
木に戻しても落ち着きが無い【あげ】
結果。『あげ』はさなぎになってしまった。ベランダのあまり目立たない所で青虫としての動きを止めた。翌朝、ベランダと同じ色になっていた。そして私は『待つ』ことになった。梅雨に入ったので、雨が降る日は濡れてはかわいそうと、屋根をつくってもらった。またさなぎが孵るのは、早朝ということで毎朝忘れることなく、チェックした。

さなぎになって3週間目の日曜日の朝。小雨の中さなぎを見るといつもと形が違う。焦ってのぞくと既にそこに中味はなかった。あげは私が知らない間に蝶になっていたのだ。蝶として旅立つ『あげ』をうるうる感動して見送る予定にしていたのに。私はそうできなかった自分を責め・一緒に観察をしてくれた相棒を責めた。

しかし、違った。ヤツは私たちより上手だったのだ。実は『あげ』は私が異変に気づく1週間前にはすでに蝶になっていた。ヤツが余りにも巧妙に殻を破ったのに気づかず、私たちはマヌケなことに空っぽをしばらく育てつづけていたのだ。撮影記録を改めてみることでわかったのだ。きっとヤツは出て行くとき、破った部分を足できれいに戻して「ふふっ」と笑って出ていったに違いない。
置きみやげの【さなぎ】ほそい隙間が見える

すべてが解決して数日後の朝、頭の上にアゲハ蝶が舞った。どきどきしてみつめていると、蝶は近くの木に卵を産み付けた。これが『あげ』かどうかはわからないが、また糞のような『あげ 2世』が孵ったらまた育ててみよう。と思った。そして私の大切な『あげ』は、いまパソコンの壁紙になっている。(気持ち悪いと思った方、「ごめんなさい」)

※この記事を書くにあたって、【あおむし園】の塚田 彰さんに色々お世話になりました。『あげ』についてもっと色々知りたい方は覗いてみて下さい。


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